企業の代表者や役員、長年会社に貢献した功労者が亡くなった際に行われる「社葬」。
社葬は、故人の功績をたたえるとともに、会社として感謝と敬意を表す大切なセレモニーです。一方で、規模が大きくなるほど費用負担も増し、適切な費用設定や税務処理の判断が求められます。
この記事では、社葬費用の相場や内訳、税務上の注意点、費用を抑える工夫まで、社葬を行う際に知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
社葬とは何か
社葬とは、会社が主催して行う葬儀のことです。社長や役員、あるいは会社の発展に大きく貢献した功労者を偲び、社員や取引先など関係者が集まり感謝の意を表します。
一般葬と異なり、会社が主体となって執り行うため、式の内容や規模、案内方法などは、企業の姿勢や社会的な評価につながります。そのため、社葬の運営には、慎重な準備と適切な対応が必要になります。
社葬の費用はどれくらい?相場と内訳
社葬といっても、その規模はさまざまで、小規模に行うものから、大型会場を貸し切って1000人以上が参列する大規模なものまであります。そのため、費用を一概に示すことはできません。
ただし、会社を挙げて行う式典であり、社員や取引先、関連団体など多くの関係者が参列することが多いため、一般的には100人以上の規模となるケースが大半です。参列者が100名程度の小規模な社葬で300万円前後、中規模の社葬(300~500名程度)では800万〜1,000万円、大規模の社葬になると2,000万円を超えるケースもあります。
また、地域によっても費用は変わり、都市部で開催する方が費用が高くなる傾向にあります。
費用の主な内訳
社葬の費用は、祭壇や会場費、飲食費、返礼品など、さまざまな項目が積み重なって構成されます。なかでも、参列者の人数や会場の種類、提供する料理の内容によって総費用は大きく変動します。そのため、想定規模に応じた現実的な予算設定と、事前の見積もり確認が重要です。
一般的な社葬における主な費用は以下の通りです。
- 葬儀一式費用…祭壇、棺、遺影、司会進行、火葬料、骨壺、ドライアイスなど
- 会場費用…式場使用料、控室使用料、駐車場代など
- 飲食費用…通夜振る舞い、精進落とし、会食費など
- 返礼品費用…香典返し、会葬御礼品など
- 人件費・設営費…葬儀社スタッフ、警備員、案内係、会場設営費用など
- 広報・印刷費用…案内状、訃報広告、会葬礼状、式次第など
- その他諸費用…供花・供物、ハイヤー・送迎車、宿泊費、読経料・戒名料など
社葬の費用を左右する3つの要素
社葬の費用は参列者がどれくらいか、葬儀の形式をどうするか、会場をどこにするかといった、いくつもの要素が重なって決まります。中でも費用を大きく左右する要素は次のようなものがあります。
①参列者の人数がどれくらいか
参列者の人数が多くなるほど、広い会場が必要となり、会場費が高くなります。人数に比例して飲食や返礼品の数も増えるため、トータル費用もあがります。特に取引先や関係団体を招く場合は、想定以上に人数が膨らんでしまうケースもあります。
②葬儀の形式をどうするか
社葬には、一般葬・合同葬・お別れの会など、いくつかの形式があります。一般葬は葬儀と告別式を兼ねた伝統的なスタイルで、宗教儀式を伴うことが多く、費用も比較的高くなる傾向があります。
一方、お別れの会や合同葬は、形式にとらわれず自由度の高いスタイルが多く見られます。供花や香典を辞退するケースも多く、返礼品を簡素化できるなど、全体的にシンプルな構成で費用を抑えやすいのが特徴です。
③どんな会場を選ぶか
社葬の会場は、ホテル、葬儀専門式場、寺院、公的施設など、どこを選ぶかによって費用が大きく変わります。
ホテルは格式があり、立地や設備、演出面にも優れ、会場スタッフの対応も行き届いていますが、その分、使用料は高めになる傾向があります。葬儀専門式場の場合は、葬儀に特化したサポート体制が整っており、費用と安心感のバランスを取りやすい選択肢です。また、費用を抑えたい場合は、自社の施設や自治体の公的施設、寺院を利用するのも有効です。
社葬費用と税務処理:損金算入の条件と注意点
社葬費用の扱いで注意しなければならないのは、法人税上の「損金算入」です。
条件を満たせば法人税法上「損金」として計上できますが、すべての費用が対象になるわけではありません。
社葬費用は損金算入できるのか?
法人税法上、社葬費用は「会社の業務に関連して行われた」と認められる場合、その費用は損金として扱えます。
判断のポイント
- 社葬の目的が故人の功績を称えるものであり、私的な要素がないこと
- 規模や内容が社会通念上妥当であること
- 費用の内訳や領収書など、証拠書類を整えていること
ただし、判断はケースによって異なるため、必ず税理士など専門家への相談が必要です。
損金算入できる費用とできない費用例
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区分 |
損金算入できる可能性のある費用 |
損金算入が難しい費用 |
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主な例 |
・祭壇・会場費 ・飲食費(常識の範囲内) ・広報・印刷費 ・返礼品費(香典返し相当分を除く) など |
・遺族の個人的費用 (仏壇・墓地購入費など) ・過度に豪華な飲食費 ・香典返し (遺族の香典から支出されるべきもの) など |
税務調査では「誰が費用を負担したか」「会社としての支出目的が明確か」が重視されます。そのため、会計処理や支払いの区分を明確にしておくことが重要です。
税務上のトラブルを避けるためにも、会社と遺族の支出を明確に分けることも重要です。
社葬費用を抑えるための4つの工夫
社葬は会社としてのブランドイメージを示す場でありますが、無理のない予算設定も欠かせません。社葬費用を適切に抑えるための4つのポイントを紹介します。
①事前に「社葬規定」を作成する
あらかじめ担当者や実施基準、費用の上限を明確にした「社葬規程」を整備しておくことが重要です。突然の事態でも迅速に判断ができ、不必要な支出を防ぐことができます。会社としての基準が定まっていて、予算の範囲が決まっていれば判断に迷うことが少なくなり、全体のコスト管理がしやすくなります。
②複数の業者から相見積もりをとる
社葬に必要な費用は、必ず相見積もりをとるようにしましょう。相見積もりを取ることで、全体の相場を把握しやすくなり、価格だけでなくサービス内容の比較も可能になります。
見積書の項目が「一式」とまとめられている場合は、後から追加費用が発生するおそれもあるため、明細で確認しなければなりません。
③会社の状況にあわせたプランにする
社葬の費用を抑えるためには、葬儀の規模や形式を適切に設定することも重要です。故人の意向や会社の状況を踏まえ、参列者の範囲や式の内容を明確にすることで、無理のない予算配分ができます。
過度な演出や装飾は控え、シンプルでも品格を感じさせる演出を意識すれば、コストを抑えながらも誠実で温かみのある式を実現できます。
④自社で手配できるものはなるべく自前でする
葬儀の進行や宗教儀礼など、専門的な知識や経験を要する部分は、葬儀社などの専門業者に依頼することで安心して進められます。一方で、社内で対応できる業務を自社で行うことで、全体のコストを抑えることも可能です。
たとえば、案内状の作成や発送、会場設営の補助、受付・案内係の一部などは自社でも対応しやすい業務です。外部委託と自社対応のバランスを見極めることで、効率的かつ無理のないコスト削減が実現できます。
まとめ
社葬は、会社に貢献した故人への感謝を伝える場であるとともに、会社の姿勢や信頼を示す大切な儀式です。社葬にかかる費用も複雑で、金額も大きくなるため、費用の妥当性や税務処理など、慎重な判断が求められます。
事前に社葬規程を整備し、複数の葬儀社の見積もりを比較しながら、無駄のない適正な社葬費用の設定を心がけましょう。また、費用の会計処理や損金算入の判断については、税理士や葬儀社といった専門家と確認しながら進めていきましょう。
NHK「おはよう日本」でStoryが紹介されました

















