一般のお葬式もできる?!知られざる青山葬儀所の秘密
青山葬儀所というと、都内でも一等地にあって芸能人など有名な方のお葬式やお別れの会を行う場所というイメージがあります。
でも、実はこの青山葬儀所で一般の方々のお葬式も行っているってご存知ですか?
今回は、そんな青山葬儀所の意外な素顔について、青山葬儀所の石井弘之所長にお話をうかがいました。
目次
青山葬儀所とは
東京・港区にある東京都の葬祭施設。都心にありながら、約3,000坪の敷地では四季折々の自然が楽しめる。明治時代に民間の斎場として生まれ、その後、大正時代に東京市、今の東京都に寄付された。平成18年度から公共施設の管理運営を民間に委任する「指定管理者制度」が開始され、日比谷花壇グループが指定を受けて、この施設の管理・運営を行っている。
芸能人のお別れ会、数にしたら年間利用件数の1割未満
― 青山葬儀所と聞くと、“芸能人のお葬式”をする斎場というイメージがあります。
芸能人のお葬式は新聞やテレビなどで報道されることが多いので、そうした印象を持たれるのだと思います。たしかにそのようなお葬式も多数行っていますが、数にしたら、この斎場の年間利用数の1割にも満たないでしょう。
では、どのような方にご利用いただいているかというと、例えば、企業の社長や専務クラスの方々、あるいは行政の関係者、病院の先生、大学の先生、各種団体のトップの方々などの葬儀があります。
世間一般には名前がそんなに知られているわけではないけれども、社会的に影響力のある立場にいて、ご活躍されてきた方々の葬儀があります。
― どの位の人が集まるお葬式なのでしょうか?
大きな企業の社長さんの葬儀では数千人規模というものもありますし、最も大きいものでは、ある歌手の方の葬儀でしたが、ファンの方も含めて6万人がいらっしゃったということもありました。
都心にある3,000坪の敷地を借り切って、葬儀を執り行えるので、大きな規模のお葬式やお別れの会を行うのには適しています。しかし、その一方で、一般の方のお葬式も行っているんですよ。
だれでも青山葬儀所で普通にお葬式ができる?
― 一般の人でも青山葬儀所でお葬式ができるんですか?
もちろんです。
公共施設ですから、いわゆる公民館や図書館などを利用するのと同じです。
― 一般の方が青山葬儀所を使えるとは思ってもみませんでした……
例えば小さな町工場の経営者の方の葬儀です。
最近のドラマでもありましたが、会社は小さくても、その会社で生産するものが世界のシェアの8割を占めてるなんて会社も日本にはたくさんあります。
海外からのお客様もいらっしゃったり、弔問に訪れるのが一流の方々だったり。規模に関係なくそれなりの格式をもって送り出したいというお葬式もあります。そのような場合にも、ご利用いただいています。
空港からアクセスする場合も、例えば成田空港でタクシーに乗って「青山葬儀所」と言えば、ほとんどの運転手は知っているでしょう。
また、身近な方、近親者のみで葬儀を挙げるという方も増えてきた中で、家族葬を青山葬儀所で行う方も増えてきました。
先ほど、6万人が集まるお葬式が行われたと申しましたが、反対に参列者数が少ないお葬式では20名くらいのお葬式も行っています。
どういう人が青山葬儀所でお葬式をしているの?
― 参列者が20名といったら、普通の家族葬みたいですね。実際にそういった方々が青山葬儀所を選んだのには、どういう理由があるのですか?
やはりご家族もいろいろな想いをお持ちなのだと思います。
例えばタクシーの運転手さんの葬儀がありました。
この方は生前、それこそ生涯をかけて何千人、何万人の方を都内のあちらこちらに運んでいました。奥様は東京中を走っていらしたご主人のために「東京の中心ともいえるような地で、葬儀を挙げたい」とお考えでした。
最近、ご遺族の方々がよくおっしゃるのが、「お葬式で何を大切にするか?」ということです。それぞれのご家庭の中で、葬儀にかけられる費用は限られています。その費用を何に使いたいかと考えたときに、もちろんお料理であるとか返礼品であるとかに費用をかけたいという方もいらっしゃいます。
そんな中で、ある方がおっしゃっていたのが「ご弔問者はお料理を食べに来るわけではない。遺族としては故人を皆さんとともに弔い、しっかりと送りたい」という言葉です。
皆さんと共に、きちんと故人をお送りしたいと思ったら、やはり格式も重要になります。
ご遺族のお住いの近くにもいろいろな葬儀施設やお寺もあることでしょう。でも、青山葬儀所で自分の大切な方を送ることで、本当にきちんとした葬儀、格式高いお別れができたと感じてくださっているのでしょう。
お料理、あるいは飾り付けが質素であっても、そのことは葬儀の本質とは関係がありません。弔問客に対して「葬儀は青山葬儀所で行うのでこちらにご弔問にいらしてください」とお迎えするのが、おもてなしにもなっています。
さらに、式が一通り終わった後、式場の中、あるいは中庭で集合写真といいますか、記念のお写真を撮られる方も大勢いらっしゃいます。
このように、大切な故人を青山葬儀所で送ったという満足を感じてくださっているのだと思います。
― 広い式場ですが、家族葬になると寂しくならないですか?
この建物は昭和49年に改築されたものです。簡単に言えばそのころの通夜・告別式にあわせて造られていますから、式場だけで300席もあります。
私たちが施設の管理・運営をはじめた当初は、式場の椅子が床にボルトで固定されていました。これでは人数が少なくても椅子の数は調整できません。
そこで、まずはボルトを外して椅子を自由に移動できるようにしました。
照明は、もともとは白く冷たい水銀灯のような感じの灯りでしたが、明るい暖色系の照明に変えました。さらに式場内にカーテンレールを設置し、お葬式の規模に合わせて式場の広さを調節できるようにしました。
式場の外も、受付から入って式場や遺族控室などさまざまな施設をつないでいる回廊も自由にお使いいただけます。日比谷花壇グループ独自のお客様サービスの一つとして、ここにハンギングバスケットをご用意してお花を飾らせていただいています。
このように今どきの葬儀にも対応できるように少しずつ、施設改善やサービスの見直しを行ってきましたので、家族葬でも充分に対応できます。
利用料金も改定、前よりもっと使いやすく
― 利用料金も以前より使いやすい価格になったそうですね?
料金は私たちが指定管理者になった時に2割ほど下げています。
こうした大型の葬儀施設が他にもある中で、お客様はそれぞれの施設を比較して検討、使用されるわけです。そういう意味で市場調査を行い、新しい料金を都に提案し、改定しました。
また、小規模なお葬式の場合、人数が少なければ使用する施設も、時間も短時間で済みます。
この施設は4時間単位で料金が決まります。少人数であればお焼香の時間もお清めの時間も短くてすむでしょう。飾り付けもそれほどこだわらないかもしれません。そうなると利用時間も少なくなり、料金も抑えることができます。
さらに、施設改善を行ったことで、ご遺族と参列者の負担を抑えることもできます。
例えば式場では、祭壇を飾るステージは当初、コンクリートがむき出しになっていました。
こうした建築が主流だった時期もありましたが、時間と共に汚れてしまいます。そのため祭壇を飾る度に、壁を隠す幕を張らなければならない状態でした。それだけで数十万という費用がかかります。ですので大理石風のパネルで壁を覆って、そのまま利用できるようにしました。
また待合室の建設もあります。
式場は300席のため、大規模な葬儀では駐車場に数百名収容のテントを張っていました。
利用料金をせっかく下げても、そのテント代で別途100万円から200万円くらいの費用が発生し、それが全部ご遺族の負担になっていました。
参列者にとっても、雪の降る日だろうが、日差しで照り返す暑い日であろうが構わず、一時間くらいテントの下で待ち続けなくてはなりませんでした。安心、安全という視点から見ても望ましい状態とは言えません。社葬などに参列された方には、社会的な地位の高い方もいます。こうした方がテントで長時間待たされたら、「もしも当社で万一のことがあっても、青山葬儀所を使うのはやめよう」と思われるかもしれません。
そうした改善の余地がある点をビジュアルで伝わるように資料を作成し、東京都に伝えて待合室を造ってもらいました。
そうするうちに、今度は祭壇を飾るお花屋さんも活躍を始めました。
ドウダンツツジなど枝物を使ってお金をかけずにボリュームを出したり、丈の長いお花を使ったり、費用をかけずに作り上げる。
花だけでなく、「主人の開発したこの機械を置きたい」とかそういったご遺族のご要望にお応えしながら、賞状とか故人の生きた証を青山葬儀所の祭壇に飾って、ご弔問の方に見ていただくようになりました。
世界的な特許を取ったとかではなくても、例えば小学校の先生であればその生涯で何人のお子さんを育てたことか? その子どもたちが今、大人になって社会で活躍していることでしょう。タクシーの運転手さんは生涯で何人ものお客さんの「急いでくれ」という要望に応えてきたのでしょう。
そうした故人の人生をご遺族は青山葬儀所でたたえたいと希望されています。そうしたご希望やご期待に沿えるよう、私たち施設の指定管理者が工夫をしなければならないと思います。
― こうした改善点はどのようにして見つけているのですか?
私はよく、式場の座席に座るようにしています。
自分が利用者にならなければ、利用者の気持ちはわかりません。お客様と同じ視点に立って考えることで、気付かなかったことに気が付くときがあります。
また、年に1回は遺族室に皆で泊まるようにしています。
遺族室で一晩、実際に自分で寝てみると、「夜でも意外と車の通る音が響くんだな」というように、昼間の勤務ではわからないことが見えてきます。
そこで、通りに面した硝子戸を二重にしたりさまざまな改善を行うことができました。
さらに、ご利用いただいた葬儀社の方にも年に1回、年末の時期にアンケートをお送りしています。
このアンケートも初めのうちはなかなか答えてはいただけませんでしたが、数を重ねるうちに、たくさんのご回答をいただくようになりました。
でも、これだけではまだ不十分です。
というのも、例えばアンケートで「良い」と回答していただいた場合、なぜ「大変良い」ではなくて「良い」なのかが重要になります。こうしたことを詳しく知るために、できるかぎり葬儀社を訪問して直接お会いして、お話を聞くようにしています。
― ご遺族と直接お話しすることはありますか?
「数百名の葬儀になるだろうが、何をどう決めて行ったらよいのか……」というご相談をお電話でいただくことがあります。「お医者さまから『1週間くらい』と宣告されてしまって……」という最も辛い状況でご相談に来所される方もおります。
また、「青山葬儀所のサイトは見たけれど、式場やお清所を見せてもらえないか?」というお問合せも増えてきました。
ご来所いただければ、一般的な式の流れなどをご説明し、いろいろな状況に応じて式場やお清めの場所などの使い方をご紹介しています。式典やお清めをどのように行うのか、どの程度の祭壇飾を行うのかなどで、利用時間が決まり、料金が決まるということなどもご説明しています。
― 葬儀社を紹介してほしいという相談にはどのように対応していますか?
公共施設ですので特定の葬儀社を紹介することは一切できません。しかし、過去にご利用いただいた葬儀社のリストはお渡しできます。そして同時に数社に相見積をお願いすることをお勧めしています。
青山葬所で施設のご利用以外に何かをお受けすることは一切ありません。
― 一般の方の相談や申し込みは電話でできるのですか?
公式サイトからは施設のご紹介、ご利用可能な日の確認(予約状況の確認)、申込書のダウンロードもできます。
また、日程が定かではないという状況では、ご要望の日付とその前後も含めて仮予約ができます。
お電話:03-3401-3653(受付:9時~17時半、12月31日~1月3日を除く)でご連絡ください。
お葬式と共に進化を続ける青山葬儀所
― これからの青山葬儀所はどのように変化していくのでしょうか?
施設のご利用については、安心安全であること、近隣にご迷惑をかけないこと、諸設備などを含めて現状復帰すること、この3つを基本的な原則としています。
また、この施設はもともと葬儀式、告別式のみを行う所でしたが、通夜もできるようになりました。さらに東京都と相談し、協議しつつ、今では生前葬や法要もできるようになりました。
青山霊園での納骨では、まず青山葬儀所にお集まりいただき、隣接する同霊園で納骨し、戻られてから納骨時の法要を行い、ご会食をされています。
さらにお別れの会では、さまざまな飾り付けはもちろんのこと、模型や写真、動画などで振り返っていただくことも行われています。「○○さん三回忌」「○○慰霊祭」「○○さんを偲び、みんなで歌う会」など、ご利用の幅は広がっています。
葬儀は式典であり文化ですが、時代と共に、また都民のご要望の変化と共に、変化していくものと考えます。ただし、葬儀が本来持つ意味・意義、さらには故人を弔い、見送るという式典の価値は不変ではないかと考えています。
日本を代表する葬儀専用施設として、これからも日本の葬送文化を大切に見守っていきたく思います。
―― ありがとうございました。
著名な方の葬儀・告別式やお別れ会(お別れの会)が行われる場所、というイメージの青山葬儀所ですが、実際には家族葬も行える施設だったのですね。
(写真提供:青山葬儀所指定管理者 日比谷花壇グループ / 文・構成:小林憲行)
※本記事は、2016年2月11日及び2017年1月28日に「いい葬儀マガジン」に掲載された記事を転載しています。
NHK「おはよう日本」でStoryが紹介されました